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症例:環軸椎亜脱臼

トイ・プードル、雄、6ヶ月齢、体重3.4kg

主訴:歩様失調

症状:歩様失調、四肢の姿勢反射低下。

経過:飼いはじめた頃から、なんとなく歩き方がおかしいと思っていたが、1ヶ月ぐらい前から後肢がふらつきはじめ、フローリングなどでは滑ってしまう。


手術直前の様子。起立、歩行可。明らかな頸部痛なし。
ステロイドを処方した後、症状の改善が少し認められたとのことでしたが、下記MRI検査などから重度の脊髄圧迫が認められたため、外科的治療を実施しました。


 初診時Xray 頸部ラテラル像

 環椎-軸椎関節の亜脱臼が認められる(矢印)。

 3DCT画像 軸椎の歯突起(矢頭)が分離している。

MRI T2WI Sagittal
背側に変位した軸椎が重度に脊髄を圧迫している(矢頭)。


手術時所見:Kwireを6本挿入し終えた状態。


術後Xray 頸部ラテラル
K-wireおよび骨セメントにて環軸椎を整復固定
 
 
術後Xray 頸部DV
使用したピン
軸椎から環椎への経関節ピンニング:直径1.1mm K-wire x 2本
環椎へのアンカー用:直径1.1mm K-wire x 2本
軸椎へのアンカー用:直径0.9mm K-wire x 2本
 
脱臼の状態および環軸椎の形態学的特徴が症例ごとに異なるため、手術方法は状況に応じて判断していますが、私の場合、スムースピンを6本使用した腹側固定法を選択する場合が多いです。
 
 
 術後3日目の様子。起立、歩行可能、食事も可能。これから術後2週間、安静入院です。術前の状態が良好でしたので、術後の回復も早期に認められました。
 
 
 
注)犬の環軸椎亜脱臼の整復手術を安全に行うためには、専門の知識、経験、技術を必要とします。また、骨セメントに細菌が感染すると、重篤な合併症を引き起こしますので、極めてクリーンな手術室環境が求められます。
 
 
 

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