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症例:小型犬のレッグペルテス病

トイ・プードル、12ヶ月齢、

主訴:左後肢跛行

症状:左後肢の跛行、挙上

経過:1ヶ月ほど前から、左後肢の跛行と挙上が始まった。NSAIDsの処方によりある程度改善が見られるものの、依然として軽度な跛行が続いている。また、室内でも気が付くと左後肢を上げている時が多い。筋肉量も低下している。


来院時の歩行状態。極軽度の跛行で、注目しなければ気づかないレベル。


左股関節の触診。明らかな伸展時疼痛が認められる。他の関節には異常を認めない。


股関節伸展時VD像:明らかな異常を認めず。



股関節・フロッグレッグポジション像:左大腿骨頭の偏平化(白矢頭)と、関節腔の拡大(黒矢頭)が認められる。


CT所見:左大腿骨の骨頭に骨密度低下領域(白矢印)を認める。骨頭部の部分的壊死と評価し、レッグペルテス病と診断する。大腿骨頭切除術(Femoral Head Osteotomy)を実施する。


大腿骨頭切除術後のレントゲン。大転子から小転子を結ぶラインで大腿骨頭および骨頸を切断(黒矢頭)。寛骨臼もできるだけ平坦化する(白矢頭)。


手術から1ヶ月後の歩行状態。跛行は改善し、元気に歩行できるようになっています。


術後2ヶ月目の股関節伸展時VD像。リモデリングが認められ、大腿骨側は凹状にカーブし(黒矢頭)、寛骨臼も平坦化する(白矢頭)


術後4ヶ月目の股関節伸展時VD像。リモデリングがさらに進行し、きれいなカーブに仕上がっている。患肢の跛行や挙上はまったく見られなくなり、筋肉量にも回復傾向が認められる。
このように、大腿骨頭切除術後の股関節はリモデリングが進行し、きれいなカーブで成形された面と面で擦れあうタイプの関節が再生する。このような治療経過には、術後のリハビリテーションが重要であり、可能な限り術後早期から受動的な関節運動を実施するべきである。
レントゲンで患肢のほうが短く見えるのは、術後も患肢を完全に伸展できないため、見かけ上短く写ってしまっているためである。大腿骨頭切除術後の運動機能回復は、特に小型犬で良好なため、歴史的にも古くから用いられてきた手術方法であるが、より良い関節機能の回復には、人工関節のほうが理想的なのではないかな、と考えている。






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